ハイサイ!ゆーじん(@YJ_nurseman)です
病院に長らく勤めていると、怖い話の一つや二つや三つや四つも経験するものです。
今回は「笑う」をテーマに短めのお話を書いてみましたので、どうぞお楽しみ下さい。

それでは「ナステート」始まります!
病院の怖い話
逆さま
同じ男性看護師で、先輩でもあるAさんが、新人時代に経験した話。
Aさんは総合病院の外科病棟でその日勤務をしていた。不器用だったが、スポーツで鍛えた持ち前の体力で、その日も看護業務をこなしていた。そろそろ日勤の勤務も終わりに近づき、看護記録を書くためにほとんどの看護師がナースステーションに集まっており、Aさんも今日の患者とのやりとりなどを思い出しながらペンを走らせていた。
「ねえねえ、上の看護師、今日も大変そうよ。」
そう話しかけてきたのは、Aさんが所属する病棟の主任看護師だ。Aさんの病棟のすぐ上の階には内科病棟があり、慢性疾患で入退院を繰り返す患者が非常に多かった。精神的に弱っている患者も多く、院内で最も看護師が忙しいと言われている病棟だった。主任は先ほどまで会議に出ており、内科病棟の主任から愚痴を聞かされていたのだ。
「みたいっすね。オレの同期も大変らしいっすよ。この前も飛び降りようとする患者を取り押さえたって言ってましたよ。」
主任と話しながらも記録を書いていたAさんだったが、ふと何かが聞こえたような気がした。
「・・・主任?何の音ですかね?」
「え、何が?何も聞こえ・・・」
主任がそう言いかけたとき、明らかにその場に不釣合いな異音が皆の耳に飛び込んできた。女性の叫び声だ。声のするほうを全員で探しているときに、Aさんはナースステーション内にある、大きく造られた窓のほうに向かって歩き出し、窓を開けてみた。
次の瞬間、開けた窓の上のほうから聞こえる若い女性看護師の叫び声と、ほぼ同時にはるか下のほうで聞こえる衝撃音が響き渡った。一瞬の静寂の後、Aさんの病棟スタッフが一斉に窓に駆け寄ろうとすると、
「来るな!見るな!!」
と、Aさんは大声で叫び、皆を制止した。
その後、Aさんやその時間帯にいた男性看護師たちが1階の駐車場に集められ、さっきまで人であったその物体を運び、飛び散ったものを片付ける作業に追われたとのこと。
数年後、Aさんからこの話を聞いた私は、「大変だったんですね…。」と言うことしかできなかった。しかしAさんは、
「本当に大変だったよ。その日だけでなくしばらくもね。」
「やっぱり、スタッフや他の患者さんの動揺とか、、警察とのやりとりとか、、」
「それもそうだったけど、オレ自身が今もね。」
「?」
「目に焼きついてるんだよね、逆さまに落ちてきたあの患者の顔が。めっちゃ笑ってたんだよね。」
話題の男
上司から、ある患者さんの付き添いをしてほしいという依頼を受けたY看護師。
「え、服役中なんですか?その人。」
ある男性受刑者に大きな病気が見つかり、手術の可否について精密検査が必要とのこと。検査当日は刑務官も立ち会うが、警察からの依頼で男性看護師を検査中ひとり付けてほしいということだった。大きな病院ではたまにあることだ。
そして検査当日、連れられてきたその男の様子にYは驚いた。しかし驚いたのは男本人のことにではない。その周りにだ。以前にも同じようなケースがあり、そのときは2人の刑務官が付いていたはずだ。しかし今回は男の周りにいる刑務官の数はなんと5人だ。さすがにこの光景には異様なものを感じた。しかし業務は業務だ。たんたんと検査について説明し、患者本人の理解度を確認していった。
両手は服で覆われていて見えない。おそらく手錠がされているのだろう。拘束具なのだろうか、見るからに動きにくそうな服を、頭からすっぽりかぶっている。髪は短く刈り込まれ、ヒゲはきれいに剃られている。中背で痩せ型であり、本人確認のために氏名生年月日を確認したが実年齢より若く見えた。こちらの説明に一つ一つ「はい」としっかり答え、丁寧ではあるがやや気弱そうにも見える雰囲気だった。その男を5人の屈強な男たちが取り囲んでいるのである。腰には警棒があり、銃のホルダーのような物も見え隠れする。そのギャップがさらに違和感を醸し出すのだ。
「同意書に記名をお願いしたいのですが。」
Yがそう言うと、刑務官たちが一斉に身構えた。Yには見えないように隠しながら、刑務官たちは拘束具を取り外し、効き手であろう右手だけをあらわにした。Yが自分のボールペンを渡そうとすると、刑務官がさえぎる。準備していたペンがあるようで、刑務官自身が男にペンを渡す。
男は弱弱しい筆圧で小さく名前を書く。そのままの流れで検査着に着替えてもらおうとするが、検査着をチェックした刑務官が「その検査着に着替えるのはダメです。このままでいいでしょうか?」と言う。医師の許可を得て、そのままの格好で検査を行うことになった。ごく最小限だけ肌を露出してもらい、刑務官たちが凝視する中で点滴のための針を刺し、ストレッチャーに横になってもらい検査室に入った。
検査中は鎮静剤がよく効いており、何事もなく終わった。Yはベッドで寝ている男のところに行き、わずかに露出している右手に血圧計を巻こうとした。すると男が突然、
「ギャ!ギャハハ!ギャハハハハ!!」
と大声で笑い出したのだ。一斉に男に飛びかかる刑務官たち。拘束具のままで暴れる男。しばらくすると男が我に返ったように、「あっ…」とつぶやいて静かになった。鎮静剤の効果が切れたのか。何か夢を見ていたのだろうか。
一日の業務を終えたYは、いつもより疲れた体を引きずりながら駐車場に向かっていた。しかしあの男のことが気になってしまい、してはいけないことだと思いつつも、同意書に書かれた男の本名をスマホで検索してみる。
しばらくスマホを見ながら歩いていたYが立ち止まる。男の名前が出ている新聞記事があったのだ。そしてYも思い出す。当時話題となったあの男のことを。そしてその男の手により犠牲となった被害者のことを。
記事には目撃者の証言も出ていた。男が笑いながらその尊い命を奪い去ったというその証言が。
「ギャ!ギャハハ!ギャハハハハ!!」

今回は以上です。よければその他の記事もご覧下さい。
それでは、グブリーサビラ!(またねー)
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